155 画文集から　　水遊び

2007/7/6(金)00:05 - おおきえつこ - 206 hit(s)

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水遊び
　下の街道の集落の中を流れる一番広い川、滝の沢という川がありました。ちょうど集落の中央に竹薮と欅の大木の林があり、その間を抜けて流れ、鬱蒼(うっそう)とした茂みが陽を遮って昼でもうす暗く、清らかな川面を涼風が吹き渡る、まるで緑のトンネルのような所がありました。
　
　夏の暑い日に、友達とよくここで遊びました。川岸に細い溝を掘って川を造り橋を架け、一度にドッと水を流し、大水ごっこをして誰が架けた橋が一番早く流されるか競争したり、水車(みずぐるま)をつくって回したり、石の下にひそむ魚を捕ったり、かにをつかまえたり、また石垣の隙間に手を突っ込んで魚をつかまえる「さぐり」をしたりしました。水は透き通って飲んでもおいしい。

澄んだ水に肩までつかって、「さぐり」をする涼しさ。

僕は「やもんめ」（やまめの方言）をさぐりでつかまえた事があります。銀色の横腹に黒く丸い模様が並び、光の当たり方で虹色に輝き、ワーッと声をあげる程美しい魚でした。時としてさぐりで差し込んだ手をず蟹（モクズガニの方言）に挟まれて痛い目に合う事もあります。ず蟹はハサミにふさふさ毛の生えた大きな蟹で、焼いて食べるとおいしいのですが、見た目にはとてもこわい蟹でした。

　このように角田には澄んだきれいな水がいたる所に流れていて、僕の家の裏には清水が湧いていて、一年中流しに流れていてきれいな水音を立てていました。

　お父さんが囲炉裏(いろり)ばたで近所の人と世間話をしながら「いまに水も金を出して買わなきゃあ飲めねえようになるかもしんねえなあ」と、しみじみと世の中の移り変わりの早さを話していました。

　二、三日雨の降り続いたある日、庭に出たら大きな鰻(うなぎ)が庭に体をくねくねと、くねらせながら這っていました。また、庭の西側に高い石垣がありましたが、梅雨が降り続いたら石垣の下から清水が湧き出して、庭に水深三センチ程の細い流れをつくってしまいました。しばらくしてからその流れの底に穴が出来、穴の入口にきれいな土が少し盛り上がっています。どう見ても鰻の巣のようです。試しにミミズをつけた鰻針を差し込んでみたら、すぐに大きな鰻が食いついて来ました。
庭で鰻が釣れるなど、いかに水の中の生き物が沢山いたか、想像出来ます。

　現在この滝の沢の川は川底までコンクリートで固められ、あの澄んだ水も、淀みに洗剤の泡が浮いていてとても魚などいそうもありません。昔、兄さんの家で水車を回すために、この川から水を引きこんだ小さな川があったので、取入口から水を塞ぎ止めて、川下までくまなく探したら、たった一匹イシダ（シマドジョウの方言）が捕れました。捕れたイシダを大事に描いておきました。

　今は田の畔(くろ)から水田に水を流し込む細い溝までコンクリートで固められてしまい、あんなに群がっていた小魚も、夢のように飛び交っていた蛍も、今は見る事が出来ません。
　