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2007/7/30(月)15:20 - おおきえつこ - 4677 hit(s)
マー坊
高い樋から滝のように落ちる水が、僕の家の水車を回してから流れて、すぐ川下の隣りの家の水車を回していました。そこは撚糸(よりいと)屋さんで、まだ若いおばさんが、主になってカラカラと回る機械の前を行ったり来たりしながら、仕事をしていました。その家にまだハイハイをしている赤ちゃんがいて、マー坊といってとても可愛いい赤ちゃんでした。僕はその赤ちゃんが、可愛くて、可愛くて、毎日学校から帰ると、とんで行ってその赤ちゃんと遊びました。そしておばさんに頼んで、マー坊をおぶわせてもらったり、庭にむしろを敷いて遊ばせたりしました。
マー坊がやっとつかまり立ちするようになったある日、タンスにつかまって、立っていました。僕が裏庭から入って行って声をかけると、僕を見たマー坊はキャッ、キャッと声をあげながら、よろけるように僕の方へ歩いて来ました。おばさんとおじさんが、「わあ歩いたよ、歩いたよ、マー坊が初めて歩いたよ」と、大喜びでした。
まだ三月のはじめの頃、お母さんのいない僕は、裏の川の水を汲み、洗濯をしました。一重(ひとえ)の着物はよく洗えるのに、袷(あわせ)の着物は水をふくむと重たくて、まだ三年生の僕には、なかなか思うようには洗えません。すると撚りやのおばさんが出て来て、「なによう、そんなこっちゃあ洗えねえ。まだおめえにゃむりだなあ、ほら、こうするだあ、よく見てろよ」と、じゃぶ、じゃぶと洗って、「ほら、そっちをしっかり持ってろ」と、僕に着物の一方を持たせて、水をしぼってくれました。
お父さんは毎日忙しくて、僕の事まで手が回りません。おしりの所から裾までほころびた着物を着て、朝、学校へ出掛けました。すると、上隣りのおばさんが「なんだ、おめえそのなりは、こけえこう、ちょっくら縫ってやんべえ」と、おばさんは、僕を前に立たせたまま、つくろってくれました。
この頃、この地方の人達は生まれた土地で育ち、近所の友達と一緒に遊んで大人になり、多くはその土地で結婚し家を持ちました。だから村中の人が皆兄弟のようで、隣りの隣りの村の人までが良く知り合っていました。僕はお母さんがいなくても、こうした隣り近所の暖かい人達に見守られて育ちました。
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