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86 町長への提案:尾山の里山環境保全
2005/12/13(火)17:54 - 大木悦子 - 1348 hit(s)

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12月13日私達の4年近い尾山耕地の調査結果に基づいて
愛川町長に提案書を提出しました。以下内容です。

提案書
愛川町長 山田登美夫様        2005年12月13日
                       あいかわ自然ネットワーク 
時下、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
さて、昨年、私達の提出した提案書“「国の絶滅危惧T類・コウライイチイゴケの生育環境保全についての提案」(絶滅危惧T類とは、絶滅の危機に瀕している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、野生での存続が困難なもの)”にご回答いただきありがとうございました。
ご回答を要約しますと“国の絶滅危惧T類・コウライイチイゴケなどの野生動植物は、自然環境の重要な一部として、できる限り保存に努める必要があると認識しているが、私有地にあっては、関係者の所有権や財産権などに配慮する必要がある。
コウライイチイゴケ生育地の尾山耕地は、農業振興地域の整備に関する法律で農業振興地域農用地区域に指定され、農地を良好な状態で保存し、農業を優先的に行う地域である。利用形態の変更は農家の意向をふまえる必要がある。地権者には、草刈等の適正管理をお願いする。「愛川町農村環境整備計画」に基づき、自然環境と調和した農村環境の保全・整備に努める。町文化財保護委員会等関係機関の協力でコウライイチイゴケ・イチョウウキゴケ・ウキゴケの生育実態把握に努める。”
私達の提案書には、町道整備予定地にもコウライイチイゴケが成育していることを書きましたが、全くご回答では触れられませんでした。生育地の休耕田等の買取保全もなく、町道幣山下平線整備計画の見直しも考えられていないようです。
結論的に言えば、休耕田は私有地、農振農用地域に指定された農地であるためコウライイチイゴケ生育地としての保全対策は難しく、また、町道幣山下平線整備計画の変更もないということになります。
できる限り保存に努める必要があると認識されているとの事ですが、どの場所の生育環境を保存(環境の場合は「保全」が良いのでは)するように努められるのか、一年以上を経た今もお聞きしたことがありません。将来的に休耕田のコウライイチイゴケ生育環境の保全が困難な上、町道整備工事が実施されれば、尾山耕地にあるコウライイチイゴケ群生地のほとんどを失うことになるでしょう。
「2000年環境庁レッドデータブック植物U」に掲載されたコウライイチイゴケの生存を脅かす要因は「池沼の開発、管理放棄」とあります。絶滅の危機に瀕している種に対して、現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用しようとしているのが、尾山耕地のコウライイチイゴケ生育環境の現状ではないでしょうか。
そこで、八菅山・尾山耕地・中津川周辺の里山環境・景観の保全をめざし提案をいたします。

   提案
 尾山耕地における町道幣山下平線整備計画予定地の国:絶滅危惧T類コウライイチイゴケをはじめとした絶滅の心配される動植物の生育・生息環境の保全を里山景観・生物多様性・生態系保全の視点から行う。

尾山耕地周辺の里山環境は、国の絶滅危惧T類コウライイチイゴケをはじめとした絶滅の心配される動植物の生育・生息地として、他にかえがたい生物多様性・生態系を維持しています。また、なつかしいふるさとの原風景、美しい里山の景観は、地域住民ばかりでなく町を訪れる人々にも安らぎを与えてくれています。
当会が、2002年から2005年夏まで行った、4年近い調査結果をまとめた調査報告書「神奈川県愛川町・八菅山・尾山耕地周辺における生物多様性・生態系の保全」を町長はじめ関係各課に、すでにお届けしました。生物多様性・生態系保全対策に活かしていただけるよう、国・県のレッドデータ種のなかから選定した種について、詳しい分布と生態を調査し、結果と考察から保全対策を提示しました。
尾山耕地周辺の里山環境の貴重さを再確認いたしました。町道整備予定地内に限っても、コウライイチイゴケ、イチョウウキゴケ、イトアメンボ、コオイムシ、タマガムシ、モートンイトトンボ、マメハンミョウ、トウキョウダルマガエルなど、多くの貴重種の生育・生息を確認し、特に重要な繁殖に関する生活史も確認できました。
生物多様性・生態系保全の視点から考えると、生育・生息環境全体を保全しない限り、貴重種の絶滅の危機は増すために、尾山耕地内のどこに道路整備の位置を変更しても、大きな影響はまぬがれず、環境の修復はほとんど不可能なことも見えてきました。そのため、町道整備計画の見直し(町道整備計画の位置・規模の大幅な変更、もしくは計画中止など)以外に保全上の必要条件との整合は非常に困難であることがわかりました。

2000年環境庁レッドデータブック植物Uの蘚苔類概説・岩月善之助氏によれば「個々の種の保護が難しく森林など周辺の環境全体を保護する必要がある」とされています。
また、2004年に相模原市が調査を依頼したコケ植物の専門研究者・有川智巳氏による報告書「相模原市鵜野森一丁目緑地に生育する蘚苔類絶滅危惧種の現況について」に引用された知見では”コケ植物の生育は微環境に左右されるために、維管束植物で一般的に行われる「移植」、「代替地の確保」「環境創造による復元」(ミディゲーション)などの保全対策はほとんど効果を期待することができない。(杉村1999)・コウライイチイゴケについては、たまたま環境が適合した緑地内の人為的に管理された菖蒲田などで継続的に生育している例が知られているので、環境創造による個体群の維持が可能なように思われるかもしれないが、コケ植物については普通種ですら基本的な生態特性、繁殖特性が十分に調べられていない状況であるので、生育場所、生育量もかぎられている絶滅危惧種である本種については、基本的な生態特性がまったくと言っていいほど調べられておらず、困難である。コケ植物を保全し種を存続していくためには、自生地を含めた周囲の植生をなるべく広い面積保全し、コケ植物の生育環境を維持していくことが重要である(杉村2002)“とされています。
つまり、町道予定地がコウライイチイゴケの群落など、多くの貴重種の生育・生息環境を維持しているため、実施設計段階の検討では、保全対策は行えないことになります。コウライイチイゴケを含む貴重な里山環境の保全は、道路計画の検討だけでは解決できません。私たちの暮らし、健康が、はかり知れない自然の恩恵に支えられていることに感謝し、多くの生物を絶滅の危機に追いやってしまったことへの反省にたてば、保全について実施設計では到底対応できないことをご理解ください。

相模原市では、境川の河畔緑地のコウライイチイゴケ生育地の一部をすでに買い取り保全しています。現在、さらに、コウライイチイゴケ他貴重種の生育地であるマンション計画予定地の買い取り保全を目指し、事業者と交渉しています。生田緑地など他の生育地のほとんどが、すでに保全地域となっています。愛川町も2001年3月イトアメンボの生息環境に配慮して計画線形変更という英断をされ、高い評価を受けられました。すでに第1工区の工事に着手していますが、今回イトアメンボよりもさらにランクの高い絶滅危惧種が確認され、その生育環境保全に町が取り組むことになれば、さらに高い評価を得られることでしょう。
2000年6月に環境に配慮した町道実現の陳情をされた皆様も、こよなく愛川町の自然環境を愛するゆえに、その後明らかになった「かえがたい貴重な環境の保全」について、必ずやご理解いただけるものと期待しております。
美しい里山を歩くことへの関心も高まり、歩きながら身近な自然に親しむフットパスやグリーンツーリズムなどの動きは、公共交通の利用増加にも結びつくことが期待されます。豊かな自然やなつかしい里山景観を大切に保全したいという思いは、多くの愛川町を愛する人々の共通の願いではないでしょうか。 
今のまま、町道整備計画が進行すれば、かけがえのない町の財産・地域資源・景観などを失い、多面的な評価を失い、ひいては地域経済にマイナスになることを危惧し、ここに提案申し上げます。

あいかわ自然ネットワーク お問い合わせ窓口  大木悦子 相模原市東林間3−12−11 TEL&FAX 042−766−3350
                           五月女芳子 愛川町半原3076−2    TEL&FAX 046−281−2907  
ホームページ http://aikawasizen.net/ e-mail aikawasizen@yahoo.co.jp



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No.86 町長への提案:尾山の里山環境保全 2005/12/13(火)17:54 大木悦子 (7058)
 └ No.87 町からの回答 2006/1/5(木)18:18 大木悦子 (562)

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