◆愛川・尾山耕地で環境配慮の農道を整備へ
県のレッドデータブックで「絶滅種」とされ、全国でも西日本の数カ所でしか確認されていない昆虫、イトアメンボが生息する愛川町の尾山耕地で、環境共生型
の農道づくりに向けた取り組みが進んでいる。水田が広がる尾山耕地は、県の絶滅種や絶滅危ぐ種の昆虫十種余りが生息する「全国でも貴重な里」とされ、専門
家や地元の市民団体が協力して、これまで解明されていない生態調査も行われおり、"イトアメンボの里"を保全する動きとして注目を集めそうだ。 尾山耕地は中津川と八菅山に挟まれた約七ヘクタールで約九割が水田。現在も尾山水利組合(関戸泰夫組合長、六十八人)が耕作しているが、二〇〇〇年六月、相模原市立博物館学芸員の守屋博文さんが別の調査で耕地に入り、イトアメンボを発見した。 イトアメンボを専門にする研究者にも、生きた姿を見たのは愛川町が初めてと指摘されるほど貴重な昆虫だが、素人でも簡単に見つけられるぐらいの数が尾山耕地には生息しているとみられる。 こうした調査を受け、町は「町の宝物として、保全と農業の調和を図る」として、同耕地の真ん中を通す予定だった町道「幣山・下平線」を二〇〇一年三月に中津川寄りに変更。さらに、幅員四メートルに拡幅して舗装する予定だった同耕地内の農道整備も大幅に計画を修正した。 生態調査を踏まえながら、環境にやさしい農道の整備を進める予定で、今年一月には、イトアメンボに影響のない延長五十一メートルの部分だけを着工。整備内容も、幅三メートルと狭め、砂利を敷いてのり面にも草がはえやすい加工を施すという。 残る約四百五十メートルの整備の仕方についても、町の学芸員や地元の市民団体、博物館学芸員らが二〇〇一年九月から始めた生態調査の結果を待って協議していく。
農道整備を担当する農政課では「地権者の理解が得られ、全国的にも珍しいイトアメンボの調査を尊重しながら進める」と説明。調査に当たる県立生命の星・地
球博物館の高桑正敏企画普及課長は「調査の結果、初めて田んぼの中でイトアメンボは越冬しないことが分かってきた。尾山耕地は人と自然が調和した場所。農
業を行っている人たちの理解に敬意を表したい」と話し、一月下旬には未解明の生殖行動などの調査を行う予定。 尾山耕地には、イトアメンボのほ
か、同じく県の絶滅種とされるオグラヒラタゴミムシ、同絶滅危ぐ種のアオハダトンボやコオイムシなど貴重な昆虫十種余りが生息していることが、町教育委員
会や相模原市立博物館、県立生命の星・地球博物館の学芸員の協力による調査で分かっている。
◆イトアメンボ イトアメンボ科。体長15ミリ前後。池沼・水田などの雑草の間に生息し、水面を直線的に走るのが特徴。小昆虫などを捕食する。環境省レッドデータブックでも絶滅危ぐ種に指定される。
|