〔前の画面〕
〔クリックポイント〕 〔最新の一覧〕
〔終了〕
2007/3/11(日)01:03 - おおきえつこ - 12026 hit(s)
清水の中の笹 http://aikawasizen.net/cgi-topics/img/26-1.jpg
僕は生まれてからまわりの事が分かりかけてきた頃、家にお父さんと、二人の兄さんと二人の姉さんがいました。家の前の道を少し歩いて行くと、まっ黒なチョビ髭おじさんと、やさしいおばさんがいて、大きな犬と目白を飼っていました。このおじさんの裏隣りに僕の上の兄さんとおない年のお兄さんと妹さんが住んでいました。あとは僕の足でどこまでいっても畑と山ばかりで、他に一軒も家がなく淋しい所でした。そこは皆に三軒家と呼ばれている事を後で知りました。
三軒家にはまだ水道などありません。飲む水も風呂水も炊事の水もみな五百メートル以上もはなれた谷の清水を手桶に汲んで天秤につけ、担ってよいしょ、よいしょと運ばなければなりませんでした。
小雨が降る寒い日でした。水汲みに行ったお父さんを家で待っていた僕は、寒くて淋しくてたまらなくなって、谷間に行く道の曲がり角まで迎えに出かけました。小雨が変わって雪になりました。曲がり角からずっと向こうを見ると、谷間におりる坂のおり口の所に大きな榧(かや)の木が黒々と茂っていて、その下にお父さんの姿が小さく見えて来ました。でも雪が降って来たので悲しくなり、空を見上げて泣き出しました。すると雪は白いと思っていたのに見上げた空からうす黒いゴミが沢山落ちて来るように見え、思わず下を見ると、雨に洗われた枯れ草が火のように鮮やかな黄色に輝いて、葉の上に真っ白な雪の粒が重なっていきます。
やがて水を汲んで雪まみれのお父さんがやって来て、僕を叱りました。僕は叱られながら、お父さんの松の木のような堅い手につかまって家に帰りました。途中で水桶をのぞくと、水の中に笹っ葉がつかっていて、まるで銀で作った宝物のようにキラキラと光っています。僕はその美しさに見とれながら歩きました。
遠くから水を運ぶと、途中で桶がゆれて水が波立ち、ポチャポチャと桶から水がこぼれます。波立たないように笹っ葉や、葉のついた小枝を水に浮かせました。僕はいつまでも雨に洗われた枯れ草の燃えるような黄色と、透き通った清水の中できらきら輝いていた笹の葉の美しさを忘れる事は出来ません。
〔ツリー構成〕
└ No.125 画文集から 芋洗い 2007/2/5(月)00:06 おおき えつこ (1921) |
└ No.126 画文集から 川木拾い 2007/2/5(月)10:28 おおき えつこ (820) |
└ No.131 画文集から 遊び道具 2007/2/27(火)01:05 おおきえつこ (1541) |
└ No.132 :画文集から 清水の中の笹 2007/3/11(日)01:03 おおきえつこ (1776) |
└ No.133 画文集から 遊び相手 2007/3/11(日)01:05 おおきえつこ (1089) |
└ No.135 画文集から 留守番 2007/3/12(月)10:24 おおきえつこ (1018) |
〔前の画面〕
〔クリックポイント〕 〔最新の一覧〕
〔終了〕
※ 『クリックポイント』とは一覧上から読み始めた地点を指し、ツリー上の記事を巡回しても、その位置に戻ることができます.
|