神奈川新聞 2000年(平成2年)10日 日曜日


愛川の里山は自然豊かな“宝山”

「絶滅種昆虫」イトアメンボ見つかる

(写真:愛川町の水田で生息が確認されたイトアメンボ =守屋博文さん撮影)

環境汚染敏感60年代姿消す
 県の「レッドデータ生物調査報告書」で「絶滅種」とされ、全国でも西日本の数カ所でしか確認されていない昆虫のイトアメンボが、愛川町の町道建設予定地内で見つかった。今年六月に相模原市立博物館学芸員
の守屋博文さん(水生昆虫)が発見し、県立生命の星・地球博物館(小田原市)が九日までに、現地で生息を確認した。

 守屋さんは六月十九日午前、愛川町から委託された中津川周辺の動植物調査の一環として町道「幣山・下平(へいやま・しもだいら)線」予定地を訪問。水が張った状態の水田内で別の昆虫の写真を撮影中にイトアメンボを見つけ、六匹を採集した。
 「同じイトアメンボ科で今も広く生息しているヒメイトアメンボに比べ、体長が大きくおかしいと思った」と守屋さん。鑑定を依頼していた埼玉大教育学部の林正美教授(昆虫分類学)からこのほど、正式にイトアメンボと確認する連絡があった。
 「送られてきた標本を見て驚いた。全国的にも非常に珍しい発見だ」と林教授。イトアメンボは非常に環境に敏感な昆虫で、かつては本州から奄美大島まで幅広く分布していたが、一九六〇年代の高度成長期を境に姿を消したらしい。
 以来、九州と関西の数カ所でしか確認されておらず、関東地方では初めてらしい。県内では一部文献に記載があるものの、標本など生息を裏付ける証拠は一切残っていなかった。
 八日、現地で確認した県立生命の星・地球博物館学芸員の苅部治紀さん(昆虫分類学)によると、「休耕田にある湿地帯の非常に限られた範囲一カ所で、幼虫を含む数十匹が確かに生息していた」という。
林教授は「洗剤など人工的な汚染に弱いイトアメンボが、こんな身近な場所で見つかるとは思わなかった。愛川町の里山は本来の自然環境が残っている貴重なケースといえ、大切にしてほしい」と話している。

◆イトアメンボ
イトアメンボ科。体長は15ミリ前後。流れのない池のような場所に生息し、小昆虫などを捕食する。成虫には羽の長い種類と短い種類がいる。

 


神 奈 川 新 聞  2000年(平成2年)10日  日曜日


愛川の里山は自然豊かな“宝山”


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